大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(ラ)269号 決定 1962年12月25日

抗告人 高山一雄 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、

甲府地方裁判所裁判官柳沢千昭は昭和二十七年三月二十八日同裁判所昭和三十七年(ワ)第六〇号土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件につき抗告人両名(原告両名)に対し、命令送達の日より十四日以内に金九千百五十円の印紙を訴状に追貼すべきことを命じたが、抗告人両名がこれに応じなかつたので、昭和三十七年五月一日同裁判官は本件訴状を却下した。抗告人両名が抹消登記手続を求める本件係争の二筆の土地の固定資産評価額は計金三百二十八万二千百五十円であるけれども、抗告人両名(原告両名)が本訴により主張する利益は抗告人両名の右不動産に対する共有持分各九分の二、計九分の四即ち金百四十五万八千七百四十二円であつて、これに応ずる印紙金八千六百円分は即に訴状に貼用されている。従つて更に金九千百五十円の印紙を追貼する要のないものであるのに拘らず柳沢裁判官がその必要のあることを前提として訴状を却下したのは失当である。

と謂うにある。

按ずるに本件記録中に存する前記訴状によれば、「原告両名(抗告人両名)と被告高山まつ子はいずれも高山俊三とその妻被告高山すすのの養子であるところ、高山俊三は昭和三十六年九月四日死亡したので、その所有に属していた甲府市桜町第五番の一宅地百二十六坪八合二勺及び同所第六番の六宅地八十五坪五合二勺の二筆の土地は原被告四名でこれを共同相続し共有することとなつた。然るに被告高山すすのは高山俊三の生前昭和三十六年八月十五日同人の印鑑を冒用し、売買の事実がないのに拘らず売買により右二筆の土地の所有権が高山俊三より被告両名に移転した旨ほしいままに虚偽の所有権移転登記手続をしてしまつた。よつて原告両名は右二筆の土地の共有者としてその権利を保全するため本訴により右所有権移転登記の抹消登記手続を求める次第である。」と謂うのである。即ち本訴の請求の原因は、被告両名が高山俊三より本件係争二筆の土地を買受けた事実がないということであり、その訴訟物は被告両名の所有権取得登記の抹消登記請求権であつて、抗告人両名の共有持分権ではない。(抗告人両名が相続により夫々九分の二の共有持分を有しているということは抗告人両名の原告としての適格を肯定すべき事実なのである。)従つて本件訴訟物の価格は右の所有権取得登記を抹消せられるべき係争土地の所有権の価格と解するのが相当である。

而して本件二筆の土地の価格は固定資産評価額に依り計金三百二十八万二千百五十円と評価するのが相当(抗告人両名も右の評価を争わない。)であるから、右の金額を基準として訴状に貼付すべき印紙の金額を算定すれば金一万七千七百五十円となることが明らかである。そして本件訴状に貼付されている印紙は金八千六百円にすぎないから、その不足分として金九千百五十円の印紙を追貼すべきことを命じ、所定期間内にその追貼をしなかつたことを理由として訴状の却下を命じた原審の命令は正当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 梶村敏樹 岡崎隆 室伏壮一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例